糖質制限で耐糖能が低下する人としない人の違いは何か?

糖質制限で耐糖能が低下する人としない人の違いは何か?

糖質制限で耐糖能低下

糖質制限を長く続けていると、ほんの少しの糖質を摂っただけでも血糖値が急上昇したり、そのあと急激な低血糖によって激しい眠気を感じたりしてしまうことがあります。

いわゆる糖質酔いと言われる現象です。

このような糖質制限で耐糖能が落ちるという問題はずっと昔から言われていて、最近になって明らかになったというわけではないのですが、糖質制限が流行するにしたがって再びこの問題が取り上げられるようになってきたようです。

耐糖能が低下するというのは≒糖尿病になることを意味しますから、すでに糖尿病の人ならまだしも、健常な人が糖尿病予防だと思って始めたのに耐糖能が低下して糖尿病になってしまったら元も子もありません。

しかし、糖質制限をやっている人全員が耐糖能が落ちるわけではないこともどうやら本当のよう。

ではいったいどういう人が糖質制限で耐糖能が落ちてしまうのか、落ちない人との違いはどういうところにあるのか、そのあたりを糖質制限中の食事内容から考察してみたいと思います。

少し専門用語が多くて分かりにくいかもしれませんが、細かいことはすっ飛ばして太字だけを追って頂ければと思います。

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糖質制限によって耐糖能が低下する原因

まず、糖質制限で摂取する糖質量が減少したり、逆に摂取する脂肪量が増加する場合、どのような機序によって耐糖能が低下する可能性があるのか考えてみます。

ここに書いてる内容のほとんどは実際のところ糖質制限に限らないわけですが。

オステオカルシンの低下が耐糖能低下を引き起こす

骨の代謝は、骨の形成を行う骨芽細胞と骨の分解(骨吸収)を行う破骨細胞によって制御されています。

骨芽細胞は主なエネルギー源をグルコース輸送体GLUT1により取り込まれるグルコースに依存していることが分かっており、グルコースが取り込まれない状況では、骨芽細胞の分化が行われなくなることがマウスの実験から明らかになっています。[1]

骨芽細胞特有のGLUT1をノックアウトしたマウスでは、エネルギーセンサーとして知られるAMPキナーゼが活性化し感度を高めようとしましますが、その下流にあるmTOR複合体1の活性は抑制されます。

逆にmTOR複合体1の活性を抑制するタンパク質をノックアウトすると、mTOR複合体1は活性化しI型コラーゲンも正常に産生されます。しかし骨芽細胞の分化に必要なRUNX2は減少してしまいます。

このようなマウスでは、骨芽細胞の分化が行われないため、鎖骨頭蓋骨異形成症の兆候がみられたり、鎖骨が短くなり頭蓋骨の大泉門の閉鎖の不全などが観察されたとのこと。

ここで、AMPキナーゼα1という遺伝子をノックアウトしたマウスを使用すると、mTOR複合体1が活性化されRUNX2もI型コラーゲンも正常に産生されるようになりました。

どういうことかというと、AMPキナーゼα1というのはAMPKのサブユニットの一つで、細胞のATPレベルが低くなりエネルギー不足を感じた時に下流の生合成経路のスイッチをオフにする機能があります。つまり、このスイッチ機能をノックアウトすることにより、下流のmTOR複合体1やRUNX2も正常化され、骨代謝の分化と骨の形成が正常化したということです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4475280/

まとめると、mTOR複合体1やRUNX2が正常に存在するためには、グルコースがGLUT1を経由して取り込まれることが必要になります。

ここで一つ重要なことは、骨芽細胞というのはオステオカルシンという糖代謝をホルモンを分泌する細胞でもあります。

AMPKによってSMURF1が活性化するとRUNX2を介して骨芽細胞の分化を促進すると同時に、骨芽細胞内のインスリン受容体を標的にして活性化されたオステオカルシンの血中濃度を制御する役割があることが分かっています。[2]

GLUT1ノックアウトマウスによる実験でもRUNX2の減少により標的であるオステオカルシンの発現が著しく抑制され、結果的に血中のオステオカルシン濃度が低下します。このようなマウスでは耐糖能やインスリン感受性が著しく低下したとのこと。[3]

一方、オステオカルシンを経口によって与え続けたマウスでは、インスリンを合成・分泌するβ細胞が増殖し、ランゲルハンス島自体が増大したそうです。これに伴いインスリン分泌も増大したとのこと。[4]

以上をまとめると、グルコースが骨芽細胞に取り込まれない状況では骨芽細胞内での様々な生合成機能がストップし、結果的に糖代謝を制御するオステオカルシンの濃度まで下がっちゃいますよ、ということです。

つまり、十分な糖がないと耐糖能は落ちるということです。

β細胞の減少が耐糖能低下を引き起こす

2型糖尿病は、骨格筋や臓器でのインスリンの作用の低下(いわゆるインスリン抵抗性)と膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの低下または不全を特徴とする疾患です。

後者のβ細胞からインスリンが分泌されなくなる要因の一つに、β細胞自体のインスリンシグナル障害によって引き起こされていることが示唆されています。[5]

β細胞が持つ特有のインスリン受容体をノックアウトしたマウスでは、グルコース応答性インスリン分泌障害とβ細胞量の減少が観察されています。[6] さらにインスリン受容体とインスリン様成長因子(IGF-1)受容体のダブルノックアウトマウスでは、急激なβ細胞量の減少とインスリン分泌低下のため、重篤な糖尿病となって死亡することが確認されています。[7]

また、インスリン受容体とIGF-1受容体の主要な下流シグナル伝達タンパク質であるIRS2(IRS:insulin receptor substrate)が、β細胞量を制御していること[8]、さらにPDK1およびAktがβ細胞の成長や機能に重要であることも報告されています。[9]

β細胞でのPI3キナーゼのタンパク質の発現レベルおよび活性を低下させたマウスの実験によれば、これらのマウスで糖負荷試験を行うとグルコース応答性インスリン分泌低下と耐糖能異常を呈することが明らかになっています。[10]

これらのことから、インスリンシグナルを担う様々なタンパク質によってβ細胞の量や機能は制御されており、糖尿病が悪化してインスリン分泌量が低下するとβ細胞のインスリンシグナルが低下し、さらにβ細胞の量や機能が低下していくという悪循環に陥ってしまします。

また、インスリンシグナルが低下し、下流のFoxO1とよばれる転写因子が抑制されると、今度はグルカゴンを産生するα細胞が増殖していくことが分かっています。[11] グルカゴンは別名痩せホルモンとも言われている異化ホルモンの一つで、肝臓での糖新生を促し血糖値を上昇させる働きがあります。

つまりインスリンの分泌量が著しく低下した状態が長く続いた場合何が起こるのかというと、β細胞の量が減少することによりインスリン分泌が低下するのと同時にα細胞が増殖してグルカゴンが増えていくことになります。その結果、耐糖能異常や空腹時血糖値の上昇などの症状がみられるようになります。

以上をまとめると、β細胞の量はインスリンシグナルによって制御されており、インスリンシグナルが低下した状態ではβ細胞の量や機能が低下し、同時にα細胞が増殖してグルカゴン産生が亢進し、その結果耐糖能異常と空腹時血糖値の上昇などが起こることになります。

高脂肪食が耐糖能低下を引き起こす

脂肪(飽和脂肪酸)を多く摂る食事ではインスリン抵抗性が増大し糖尿病の発症リスクが増大します。[12]

大事なのは食事における脂肪の摂取量のみに依存していて肥満かそうでないかに関わらないということです。[13]

脂肪肝もインスリン抵抗性と関連していますが、肝臓の脂肪量も皮下脂肪の量よりも食事の脂肪量に関連しているという報告があります。[14]

高脂肪食は膵臓の機能低下も引き起こすと言われてます。

血中の遊離脂肪酸濃度が上昇し、膵臓のβ細胞が高脂肪にさらされると、β細胞の核の排除と転写因子FOXA2およびHNF1Aの発現の減少が引き起こされることが分かっています。これがβ細胞におけるGnT-4a糖転移酵素発現の欠損をもたらし、高血糖、耐糖能異常、高インスリン血症、脂肪肝、筋肉と脂肪組織におけるインスリン作用の低下などのメタボリック症候群の兆候をもたらすと言われています。これの発症過程はマウスだけではなく、ヒトにおいても観察されています。[15]

β細胞のGLUT2は本来GnT-4a糖転移酵素の働きによって糖鎖修飾され細胞膜上に留まってグルコースを検知しています。GnT-4a糖転移酵素が欠損すると、これらの機能が不全となり、GLUT2が細胞膜上に留まることが出来なくなります。その結果、グルコースを検知できずインスリン分泌が低下することに繋がるというわけです。[16]

また、高脂肪食は膵臓のβ細胞の炎症も引き起こします。

パルミチン酸を持続的にマウスに投与するとM1型炎症性マクロファージを膵臓に呼び寄せることにより膵臓は炎症を起こし、β細胞の機能障害を引き起こします。

マクロファージというはその役割によってM1型とM2型に大別されますが、一般的にM1マクロファージは炎症性単球がTNF-αやIFN-γなどを受けて分化し,病原体や寄生虫感染防御に働くと言われています。

要するに膵臓に脂肪がまとわりつくのは、病原体や寄生虫がまとわりつくレベルだと言うことです。

逆にM1型マクロファージの集積を抑えることによりβ細胞の機能に回復が認められたとのこと。

膵炎によって膵臓が大きく腫れると閉塞性黄疸を引き起こすこともあります。その結果、肌や目が黄色くなったり、白い便が出たりすることも。[17]

糖質制限の究極の高脂肪食とも言えるケトン食においても、やはり耐糖能異常を呈することが分かっています。[18] この実験ではα細胞もβ細胞も減少したとのこと。最近のガン治療に用いられているケトン産生食においても、耐糖能低下のリスクが懸念されており注意喚起がされています。[19]

以上をまとめると、食事で摂取する脂肪量が多くなればなるほどインスリン抵抗性は高まり耐糖能異常になっていくということです。

糖質制限で耐糖能が低下しないようにするには?

糖質制限で(というか、一般的に笑)耐糖能が低下する要因について3つまとめました。簡単に整理してみます。

  1. グルコースの取り込み低下によるオステオカルシンの減少によって耐糖能が低下する。
  2. インスリンの分泌量が低下することによってβ細胞の量が減少、およびα細胞が増殖する。
  3. 高脂肪食により脂肪肝や膵臓の炎症が引き起こされてβ細胞の機能低下が促進する。

こうしてみると糖質制限実践者にとっては非常に困難な課題を突き付けられるわけですが、これらを回避して糖質制限でも耐糖能が落ちないようにするにはどうすればよいのか対策を考えてみます。

オステオカルシンを増やすには?

骨芽細胞から分泌されるオステオカルシンは、実はオリーブオイルによって分泌量が増えるという報告があります。[20]

ただしこの研究は「地中海食+オリーブオイル」と「地中海食+ナッツ」を比較したものであり、もともと糖質を摂る食事グループの中でさらに増えたという結果なので、糖質制限をしながらオリーブオイルの効果が得られるのかは不明です。(地中海食は糖質制限ではない)

まあしかしやらないよりはやった方がいいでしょう。

あとはテレビでも話題になってたようですが、かかと落しやジャンプなどの動作によって骨に刺激を与えることがオステオカルシンを増やすと言われています。[21]

ただこれに関しても糖質制限の食事下での効果は不明です。

β細胞の減少および機能低下を防ぐには?

β細胞の量がインスリンのシグナルによって制御されているとすると、インスリンを積極的に分泌させてやることがβ細胞の量の維持や増加に繋がります。

一般にインスリンは炭水化物だけでなく、タンパク質によっても分泌することが分かっているので、しっかりとタンパク質を摂ることがインスリン分泌を促し、β細胞の減少を防ぐことに繋がると考えられます。[22]

最も良くないと考えられるのは、一日一食などの間欠的ファスティングを継続しながら、タンパク質の量が十分でない場合です。

プロテインなどによって頻繁にタンパク質を摂取しているような食生活であれば、β細胞の減少を防ぐことにも役立つと考えられます。

ちなみに、糖質制限によるβ細胞の減少およびα細胞の増殖と思われる症状は、糖質制限を行っている2型糖尿病の方でよく観察されています。以前A医師が二型糖尿病の患者さんの空腹時血糖値をFacebookで公開されていましたが、ほとんどの方が300を越えていました。また別のFB断糖系グループでも肉を食べただけで血糖値が300を超えるような事例が見られています。

肉を食べて高血糖が持続するのはグルカゴンの亢進を意味します。

糖質制限系の医師の間でも高血糖の記憶という言葉には賛否両論あるようで、A医師は高血糖×高血圧×高LDLが動脈硬化に繋がると考えているため、インスリンが無ければ高血糖に関してはほぼ無視している状態のようです。一方、本家のE医師の患者さんのデータはネットには出てこないので、どのように血糖値管理をされているのか分かりません。

糖質制限推進のために高血糖の記憶という不安で一般人を煽っておきながら、臨床の現場では高血糖は気にしていないのではないかという何とも言えない大人の事情が見え隠れします。

高脂肪食による膵臓の炎症を防ぐには?

糖質制限ではエネルギー源としての脂肪をしっかり摂ることが「正しい糖質制限」として認識されています。糖質制限で体調を崩す理由は脂肪が少ないためだと指導されることも多いです。(初心者の方がよく注意されてますね)

しかし、高脂肪食下では膵臓の炎症を引き起こしβ細胞の機能低下につながるため(これはヒトにおいても)、脂肪の摂りすぎはやはり耐糖能低下を引き起こすことに繋がります。

こうした問題を回避するには、糖新生によるグルコース産生を促しながらATPを産生するしかもはや方法はなく、異化を抑制しながら糖新生に頼るとなると、やはり高タンパク食が有効だということになります。

糖質制限で耐糖能が低下しない人とは?

以上のことを逆に考えれば、これらを実践している人が糖質制限をやっても耐糖能が落ちにくいのではないかということが考えられます。

つまり、油はオリーブオイルを使っていて、プロテインの頻回摂取または三食とも高タンパク食を摂取していて、さらにバターコーヒーやココナッツオイル、ラード、牛脂などの追加の脂肪酸を積極的に摂らないようにしている人

このような人は糖質制限をやってもあまり耐糖能が落ちないのかもしれません。ある意味これが正しい糖質制限のやり方と言えるのではないのでしょうか。

まとめ

糖質制限で耐糖能が低下しないようにするためには、油はエクストラバージンオリーブオイルを使って、プロテインの頻回摂取または三食とも高タンパク食を摂取して、さらにバターコーヒーやココナッツオイル、ラード、牛脂などの追加の飽和脂肪酸を積極的に摂らないようにして糖質制限を続ければ良いかもしれません。

あるいはマウスだから嘘だと思うか。

ちなみにこれらの諸問題は単に糖質制限を止めることで全て回避できます笑

もう一度言います。

油はエクストラバージンオリーブオイルを使って、プロテインの頻回摂取または三食とも高タンパク食を摂取して、さらにバターコーヒーやココナッツオイル、ラード、牛脂などの追加の飽和脂肪酸を積極的に摂らないようにして糖質制限を続けるか、または糖質制限をやめるか。

あるいはマウスだから嘘だと思うか。

何を選ぶかは個人の自由です笑

後者を選ぶ方はこちらを参考に。

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Reference

[1]https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(15)01031-4
[2]http://www.jsbmr.jp/1st_author/183_jshimazu.html
[3]https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(10)00621-5
[4]http://www.dm-net.co.jp/calendar/2014/022581.php
[5]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3736578/
[6]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10025399
[7]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16642022
[8]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15467830
[9]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15467831
[10]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3736578/
[11]https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(12)00940-3
[12]https://www.cambridge.org/core/journals/british-journal-of-nutrition/article/div-classtitledietary-fat-and-insulin-action-in-humansdiv/D8C3CDBE06B73D1B5C5A1E3B0FFF607B
[13]https://www.cambridge.org/core/journals/british-journal-of-nutrition/article/div-classtitledietary-fat-and-insulin-action-in-humansdiv/D8C3CDBE06B73D1B5C5A1E3B0FFF607B
[14]http://diabetes.diabetesjournals.org/content/52/3/701.short
[15]https://www.nature.com/articles/nm.2414
[16]https://www.astellas.com/jp/byoutai/other/reports_h20/pdf/104.pdf
[17]http://www2.khsc.or.jp/materials_collection/03/03_09.pdf
[18]https://www.physiology.org/doi/abs/10.1152/ajpendo.00453.2013
[19]https://ameblo.jp/reimi-aso/entry-12312163904.html
[20]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22855341
[21]https://kaigo.news-postseven.com/8267/2
[22]https://saitokarami.com/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%B3%E6%8C%87%E6%95%B0fii%E5%80%A4%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/

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