子どもの偏食は動物的本能なのか?- 好き嫌いの本当の原因

子どもの偏食は動物的本能なのか?- 好き嫌いの本当の原因

子どもの好き嫌いはどうやって生まれるのか

子ども達の食行動を観察していると、子どもには少なからず本能的に栄養を選択する能力があるのではないかと感じる(あるいは期待する)ことがあります。ある時はチーズを欲しがったり、ある時はお米を食べまくったり、またある時はキュウリを受け付けなくなったり。

特に風邪をひいたりしたときにはそれが顕著に現れるように感じられます。

これらの行動がその時々において必要な栄養素を本能的に選択していると解釈することもできなくはありません。

実際に、子どもの偏食(好き嫌い)は本能だから気にする必要はない、と言い切る専門家もいます。(1)

一方で子どもの偏食はADHDやLDなどの発達障害とも関連しており、発達障害を持つ子供の多くが何らかの偏食の問題を抱えていることが明らかになっています。(2)

子供の偏食は心配しなくてもいいと言われても、あまりにもその傾向が強い場合は親としては気になる問題です。

 

子ども達の偏食は一体どこから生まれてくるのでしょうか??

本当に本能的に栄養を選んでいるから気にしなくてもいいのでしょうか??

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クララ・M・デイビスの「幼児の食事の自己選択」という実験

アメリカの医師クララ・M・デイヴィスが行った有名な実験があります。(3

彼女は、日々子ども達を診察しながら偏食に由来する子ども達の栄養不足を感じていました。しかし、偏食を持つ子どもたちに高栄養な食事を強要すればするほど拒絶反応を示すことに対して次第に強い疑問を抱くようになりました。

「もしこの子ども達がそういうストレスから解放されたら何を食べたがるのだろうか?」

この疑問が数年にわたる壮大な実験を始める動機となりました。

 

その壮大な実験とは、まだ固形物を食べたことのない孤児院の1歳未満の子供たちに、一切の強要や手助けをせず食べたい物をすきなだけ与えるというものでした。

子供たちに与えられた食品は以下の34品です。

1 18 ジャガイモ
2 牛乳 19 レタス
3 発酵乳(乳酸) 20 オートミール
4 塩(海塩) 21 小麦
5 リンゴ 22 コーンミール
6 バナナ 23 大麦
7 オレンジジュース 24 ライクリスプ
8 パイナップル 25 牛肉
9 26 羊肉
10 トマト 27 骨髄
11 ビーツ 28 骨ゼリー
12 ニンジン 29 鶏肉
13 エンドウ豆 30 シビレ(膵臓)
14 カブ 31
15 カリフラワー 32 レバー(肝臓)
16 キャベツ 33 マメ(腎臓)
17 ほうれん草 34 魚(タラ)

子ども達には毎日この中から10品目程度が与えられたそうです。

与えられた食事は下の写真のような感じ。

クララデイビスが与えた食事の例

実験を手伝った看護士達は、子供達に一切の指示を出さず子ども達が食品に手を伸ばしたり食べたいという意思を示したりした場合のみ、スプーンですくって口に与えたのだそう。

ややもすると道徳的な問題に引っ掛かりそうなこのような実験をクララ・デイビスは15人の幼児に対して6年にわたって観察し続けました。

結果はどうなったのか?

クララ・デイビスは3人の男の子に関して、実験6か月後のデータをレポートにまとめています。(4

結論からいうとみんななんでもよく食べ健康になりました。少し栄養不足気味だった子も自らの選択だけで健康になりました。

クララ・デイビスがまとめた結果を簡単にまとめると以下の通りです。

  • 3人はリストの食品を満遍なく食べた。
  • しかし3種類くらいの食品だけはほとんど食べなかった。食べない食品はそれぞれ異なった。
  • 実験数週間後にはそれぞれ15品を主に食べるようになった。
  • 一回の食事でかなりの量を食べた。
  • 彼らが食べたがる物や量は全く予想できなかった(ある食事では卵を1個だけだったり、ある時は7個だったり、ある時はゼロだったり。バナナも0から4本まで差があった)
  • 飲み物(ミルク)に関しても予測不能(325cc-1419ccまで差があった)
  • 塩はたまに食べる程度だったが、口に入れると大抵はむせ込んだり泣いたりした。しかし吐き出すことはなかった。
  • 食の嗜好には大きな波があった。1,2週間は特定の食品を大量に食べ、その後満足すると徐々に元の食欲に落ち着く。
  • 調理場では特定の食品のブームがやってくると「○○ジャグが来た!」とよばれていた(ジャグとはギザギザのこと)*下図参照
  • ジャグを経験した食品は徐々にもとの食欲に落ち着くが、全くなくなることはなかった。
  • 生の食品と調理された食品で好みの差はあまりなかった。あるとするなら、牛肉は調理されたものより生の方が良く食べた。オートミールと小麦は調理されたものを好んだ。バナナ、卵、ニンジン、エンドウ豆はどちらの方法で出してもよく食べた。
  • 二つ以上の食品を自分で混ぜて食べるということはしなかった。
  • 毎回の食事でいくつかの食品を食べ、飲み物は大人がやるのと同じように食事の間で摂った。
  • 選んだ食品のカロリー比率は平均で炭水化物48%、タンパク質17%、脂肪35%で、アメリカ栄養学会が推奨する割合とほぼ同等だった。(5
  • タンパク質は個人によって9-20%の差があった。
  • 誰も腹痛や不快感を訴えたり、便秘や嘔吐をすることもなかった。
  • 便の状態も良好
  • 6か月後には栄養状態や骨や筋肉の発達も良好になった。誰が見ても健康そうな子供だと認識される特徴をもった。
  • 誰も肥満にはならなかった。
  • 身長・体重カーブも良好。活動的でよく眠り、神経質になる子もいなかった。**下図参照

*Donald Rという男の子が食べた物の牛肉(黒線)、鶏肉(点線)、羊肉(破線)の量。横軸は週。鶏肉が急に上がったり下がったりしている。

*こちらはバナナ(黒線)、オレンジ(点線)、リンゴ(破線)の量。オレンジが急な勾配を描いている。

**レポートに取り上げられた3人の子どもの体重カーブ。正常な増加を示している。

結論

クララ・デイビスのレポートの結論には次のように書かれています。

  • シンプルで自然食品を用いた自己選択食事法は、母乳幼児の離乳時期の食餌療法に安全な手段を提供する。
  • これまでのところ、一般的な信念として支持は与えられていない。
  • 消化の観点から見て、子ども達の食事は最適であった。
  • 実験に参加した子供たちは、成長や体重、骨の発達、筋肉、活力、外観、健康において、一般的に推奨される食事法によって得られるベストな結果と少なくとも同等であったように見えた。

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子どもは本当に不足している栄養素を含む食品を選択する能力があるのか?

クララ・デイビスの実験結果は、例え偏食があったとしても、子ども達には食べたいものを食べさせておけば必要な栄養素が適切に補充され、勝手に健康になるという結果を導いているように見えます。

それはまるで、自らが食べるべき物、食べるべきでない物を食欲という形で出力していると捉えることもできます。

そして、この説は食育や育児の分野でも広く信じられるようになり、多くの医師や栄養士によって支持されるようになりました。子どもには必要な栄養素を選択する能力があると主張する専門家達の根拠はこのクララ・デイビスの実験が背景にあります。(全世界でベストセラーとなった「スポック博士の育児書」にも、クララ・デイビスの実験を「子どもには自然選択の能力がある」として紹介されているそうです)

本当に食欲を頼りに食べ物を選べば、必要な栄養素は満たされるのでしょうか?

 

「マグネシウム不足だとチョコレートが欲しくなる」の真実

不足する栄養素と食欲に関連性があるものとして巷で最もよく耳にするのが、マグネシウムとチョコレートの話。(6)

不足している栄養素(マグネシウム)に対して、それを補おうとする本能がマグネシウムを多く含むチョコレート欲につながるのだという説です。

しかしこの説を支持するエビデンスを見つけることはほぼ不可能です。

チョコレートに含まれるマグネシウムの量は他のマグネシウム高含有食品に比べてとりわけ多い方ではありません。

にも関わらず、チョコレートだけが選択される理由を説明するエビデンスなんて存在しません。もしあるのなら「あおさ依存症」とか「パンプキンシード依存症」になってる人も容易に見つかっていいはず。

逆に、この説が正しいとするとマグネシウムをしっかり摂ればチョコレート欲が落ち着くことも予想されますが、そういうエピソードも見つかりません。マグネシウムサプリを飲んでも、チョコレート欲は依然残ります。

ある実験では、チョコレートだろうが、ホワイトチョコレート(カカオの成分を含まない)だろうが、どちらを食べてもチョコレートへの欲求は収まるという報告があります。(7) この実験では、カカオに含まれる成分(ミネラルやポリフェノールなど)が欲しくてチョコレート欲が生じているわけではもなく、またそれらの成分によってチョコレート欲が落ち着くというわけでもないということを示しています。

動物でさえ本能的な自己選択能力はもっていない

そもそも、自然界の動物でさえも自分に必要な栄養素を選択する能力はもっていないと考えられています。

ある実験では、美味しくないけど高栄養の餌美味しいけど低栄養の餌を用意し、ラットに自由に選ばせるようにさせたところ、一週間後には18匹のうち14匹が美味しいけど低栄養の餌を好み、その結果体重が減少していることが分かりました。

また別の実験で、ビタミンB1(チアミン)を欠乏させたラットが、本能的に欠乏した栄養素を補充できるかどうかを調べたところ、ほとんどのラットがうまくいかなかったことが示されています。その後、ビタミンB1を好むように摂食パターンを学習させてみたところ、一部のラットは適応できずに死んでしまったとのこと。(8)

どうやって特定の食品に依存が生まれるのか?

特定の食品に対して好みや依存が生まれるのは、飢えと摂食を同時に経験をした場合に強化されることが様々な動物実験から明らかになっています。(9)

チョコレートに関しても同様のプロセスを経て、チョコレート欲が生まれるようになると報告している論文もあります。(10)

私たちが何気に感じている食への衝動、例えば「喉が渇いたから飲み物が欲しい」という衝動も、単に喉が渇いたときに飲み物を飲んで満たされたという経験によって生まれていると考えられています。

つまり「今日は絶対肉が食べたい」という身体が湧き出てくるようなあの衝動も、身体がタンパク質や栄養を求めているのではなく、お腹が空いたときに食べた焼き肉の味と満たされた経験しているからに過ぎず、そんな経験をしたことがない人はそもそも肉を欲しがらないということになります。

 

子どもの偏食(好き嫌い)はどうやって生まれるのか?

特定の食品への欲求が栄養を補充するためではないとすると、子どもの食の嗜好は何によって決められるのでしょうか。

一般的には、生まれる前から持っている遺伝的要因と生まれた後に作られる経験的・環境的要因にあると考えられています。

双子の食の嗜好の違いが示すこと

遺伝的な要因と生後の環境的な要因の存在を調べるには、双子の子どもが最も都合が良いサンプルです。

2007年に行われた双子の3歳児1330ペアを対象にした研究では、野菜と果物に関しては遺伝的要因が優位であり、その他の食品は環境的要因が優位と報告しています。(11)

2686組の双子を対象にした別の研究では、果物、野菜、タンパク質に関しては同じものを好む傾向が存在する(遺伝的要因が支配的)ものの、お菓子や乳製品、デンプン食品に関してはほとんど相関はなかったと報告しています。(12)

2.5歳時と9歳時における双子の追跡調査では、食欲を支配する要因は年齢が上がるにつれて遺伝的要因から環境的要因が強くなることを示しています。(13) イギリス栄養学会にまとめられたレビューによれば、幼い頃に特定の食品に対して嫌悪感を示していたとしても、家族の影響を受けることによって逆転することもありうるとまとめています。(14)

これらの双子の研究から言えることは、野菜や果物、タンパク質に関しては生まれつきの好み(遺伝的要因)が存在し、それ以外の食品に関しては生後の環境的要因が強いこと、また遺伝的な食の好みも環境によって変化しうることが示唆されます。

では、環境的要因とはどのようなものがあるのでしょうか?

食品の暴露回数が及ぼす食の嗜好への影響

環境要因の一つに食品の曝露回数があげられます。単純にたくさん与えればだんだん好きになっちゃうという効果です。

4歳と5歳の子ども39人を3つのグループに分け、それぞれ味付けなし甘味塩味の豆腐を数週間にわたって15回与える実験を行いました。すると、子ども達はみんな与えられた味を好むようになったとのこと。(15)

また子どもが嫌がる食べ物に対しても、単に曝露回数を増やすことによって改善することを示す報告もあります(ちなみに、この研究では報酬を与えても効果がないことが示されている)。(16)

これらの結果は、食品の暴露回数が子どもの食の嗜好に大きく影響することを示唆しています。

食の嗜好に及ぼす知覚の影響

食の嗜好は口で味わったり鼻でにおいを嗅いだりするだけでなく、知覚によっても影響されることが分かっています。

最も影響を受けるのはテレビCMです。

清涼飲料水のテレビCMを見る回数が100増加すると、子ども達のその消費量が9.4%ずつ増加し、ファストフードのCMを見る回数が100増えると、その消費量も1.1%ずつ増加することが明らかになっています。特にファストフードのCMを見る回数と、子どものBMIには強い関連があるとのこと。(17)

オーストラリアで行われた調査では、子ども達のテレビを見る時間が長ければ長いほどジャンクフードを消費する量も増えることが明らかになっています。(18) アメリカ心理学会が行った調査でも、1日当たりのテレビの視聴時間が1時間増えるごとに、子どもの摂取カロリーも48.7kcalずつ増えたとのこと。(19)

このような調査の多くは肥満の多いアメリカやオーストラリアで実施されることが多い傾向があり、子供向けの番組にファストフードのCMを規制する動きも盛んにおこなわれているようです。

またテレビだけでなく、子どもが住んでいる地域のファーストフード店の数が子どものBMIと関連するというデータもあります。(20)

この調査では、食品を販売するお店を「健康(野菜や果物)なお店」と「不健康(ファーストフード店など)なお店」の二つに分類し、住んでいる家から半径800m以内の「健康」と「不健康」の割合とBMIの相関を調べたというユニークな調査です。

調査の結果、「不健康」の割合が高い地域に住む子ども達は優位にBMIが高かったとのこと。

これらの結果は、子ども達の食の嗜好は実際に食べたという経験だけでなく、目に飛び込んでくる情報からも多くの影響を受けながら決定されていることを示唆しています。

そもそも食の嗜好の遺伝的要因ってどこからやってくるのか?

環境的な要因が、食品の曝露回数であったり視覚による情報によって強化されることは間違いなさそうです。

一方、様々な調査では食の嗜好には遺伝による影響が少なからず存在することが示されています。(21) すなわち、生まれてくる前に少なからず食の好みが形成されているとのこと。

私たちはこのような問題を「遺伝」とか「本能」とか一言で済ませてしまいがちですが、そもそも遺伝による食の嗜好って何に由来するのでしょうか?どこからやってくるのでしょうか??

 

この答えの一つが妊娠中に母親が食べた物にあります。

ある実験で、ニンニクを含むカプセルとプラセボカプセル(ニンニクを含まないカプセル)をそれぞれ5人の妊婦に飲ませ、45分後に羊水穿刺を行い羊水の検査を行ったところ、ニンニクを含むカプセルを飲んだ妊娠女性の羊水からは明らかにニンニクの臭いがしたとのこと。(22)

この結果は、母親が食べた物はすぐに羊水の成分に摂り込まれ、お腹の中の赤ちゃんはお母さんが食べたものでできた羊水の中で過ごしていることを示唆しています。

妊娠期や授乳期初期に母親に人参ジュースを飲むと、生まれてきた子供はニンジンを好むようになるという研究結果があります。(23)

この調査では次の3つのグループに分けられました。

  1. 母乳育児を計画している妊婦に妊娠後期3ヵ月の間に3週間連続して週4日間300mlのニンジンジュースを飲ませ、出産後の授乳期間は水だけを飲ませた
  2. 妊娠中も授乳中もニンジンジュースを飲ませた
  3. 妊娠中も授乳中も水だけを飲ませた

その結果、妊娠中や授乳中にニンジンジュースを与えられた1と2のグループの子どもは、3のグループの子ども達よりもニンジン風味シリアルを好むようになったそうです。

著者達は、妊娠期の母親の食事がすでに生まれてくる子供たちの民族的な食文化の基礎を築いている可能性があるとまとめています。

また、妊娠中に人工甘味料が入った餌を食べていた母親から生まれたマウスは、甘味に対して強い依存を示したとのこと。(24) 食品だけでなく味についても影響を受ける可能性があることを示唆しています。

さらには、妊娠中に母親がジャンクフードを好んで食べていると、子どももジャンクフードへの嗜好が高まるという報告も。(25)

このように遺伝的影響と言っても、その背景には妊娠中・授乳中の母親の食生活の影響を大いに受けており、突き詰めれば環境的な要因だとも言えそうです。

 

子供たちの偏食が生まれる本当の原因

以上の結果から子ども達の偏食(好き嫌い)がどうやって発生するのかまとめてみたいと思います。

クララ・デイビスの実験からは、子ども達にはまるで自分に必要な栄養素を選択する能力があるのかのような結果が得られています。そして、その結果が独り歩きし、子どもには好きなものを与えていれば勝手に健康になると紹介する育児書さえ出回るようになりました。

しかし実際はヒトだけでなく野生の動物にもそのような能力がないことが様々な実験で示されており、私たちが特定の食品を渇望する欲求は、過去の経験(例えば、のどが乾いた時に水を飲んだ等)によって強化されていくとする説が有力です。

また子どもの偏食は、遺伝的要因だけでなく環境的な要因に大きく左右されます。食卓に上がる回数であったり、目に飛び込んでくる2次元や3次元の情報であったり、味覚や嗅覚だけでなく視覚にも強く影響されていることが示唆されています。

また上では挙げませんでしたが、ある食品での嘔吐の経験(26)やミネラル不足(特に亜鉛マグネシウム)によっても味覚や食欲が変化すること、生まれつき味蕾(舌の味を感じる器官)が異常に発達しているスーパーテイスター(27)だったりすることも偏食の原因として考えられています。(ただしスーパーテイスターの研究において優位な相関があったのは「苦み」だけであり、それ以外については環境的な要因の方が強いと報告している)

一方、遺伝的な要因には、子どもが胎内にいた時の母親の食事が大きく影響していることも無視することはできなさそうです。

このように見れば、子ども達の食べ物の好き嫌いは、お母さんのお腹の中にいるときと生まれてから口にする食の環境に大きく依存していると考えることができます。

 

ではクララ・デイビスの実験はどう解釈すべきでしょうか?

まずクララ・デイビスの実験で使用された食材は、すべて天然の食材であり何を食べても栄養は満たされたであろうという指摘があります。(#) もし選択肢の中に子どもが喜びそうな食品(例えばウィンナーやシリアルなどの精製小麦食品、甘いお菓子)が含まれていたら、それだけを食べていたであろうという予想は容易にできます。

実際に多くの子ども達に最も好まれたのは最も甘味の多い果物とミルクだったそうです。

ちなみに、クララ・デイビスの実験について脳と骨髄が最も好まれたと書かれた日本語記事が散見されますが、今回紹介したクララ・デイビスの報告にはそのような記載はありません。「嫌がるだろうと予想された食品もよく食べた」という文面のみであり、カロリー比率を見ても分かる通り実験に参加した子ども達が最もよく食べたのは炭水化物です。別の研究でも子ども達は普遍的に甘味を求めていることが明らかになっています。(28

もう一つは、この実験が行われた1920年代は今ほど加工食品やジャンクフードで溢れていなかったこと。

その結果、その時代の母親と現代の母親の胎内の環境もまた違っていたはずで、いわゆる遺伝的な要因が異なる環境では子ども達も色んな食材を受け入れやすい状態にあったことが想像できます。

また、テレビなどによる知覚的な情報が抑制されていたことや、他の子ども達と毎食共にするという状況は、現代の子ど達が育つ環境と比べれば非常に特異であったことも考慮すべきです。(他の子ども達が美味しそうに食べているという視覚情報も食行動に影響を与える)

定期的に表れた「ジャグ」についても、よく見ると実験直後から観察されたものはなく、どの食材も実験開始数週間後から現れ始めていることがわかります。これは子ども達が実験の食事の中で経験的な要因によって強化されていったと考えることができ、不足している栄養素を補充するために現れたとは考えにくいといえます。

また実験に参加した子ども達は34品全てを食べたわけたのではなく、それぞれ15品を好んで食べたと報告しています。

こうして見ると本能的に見えたクララ・デイビスの実験も、単に特異な実験環境がそういう風に見せていただけであり、遺伝的な要因と環境的な要因でほとんどは説明できると言えます。

まとめると、人間や生物にはそもそも本能的に栄養素を選択する能力は存在せず、ほとんどは経験や環境的要因によって偏食は強化されるというのが本質ではないかと考えられます。

 

おわりに

いまだに多くの専門家が、子どもには本能で自分に必要な栄養素を選択する能力があると考えています。

その根拠にはクララ・デイビスの実験に由来していることが多いようです。

しかし、あらゆるエビデンスを総合的に判断すると、子どもだけでなく野生の動物さえ不足する栄養素を選択する能力があるとは言い難いことが分かります。

子ども達や私たちに必要な食べ物を本能で選ぶ能力がないということを認めることは、親の食育に関する相応の知識が必要であることを認めることにもなります。特に加工食品やジャンクフードが氾濫する現代においてはそのような知識の重要性が高まっています。

子どもの偏食の改善には様々な方法が提案されています。(16)

今回は長くなったのでそれはまた別の機会にまとめたいと思います。

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Reference

http://psycnet.apa.org/record/1990-27964-001
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https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1570677X11000293
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https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0950329305000662
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http://www.medicine.mcgill.ca/epidemiology/hanley/Reprints/ClaraDavis1928.pdf
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https://www.scientificamerican.com/article/are-food-cravings-the-bod/
https://www.lifehacker.jp/2016/02/160205how_we_learn_to_eat.html
https://www.popsci.com/how-we-learn-to-eat
https://www.researchgate.net/publication/11479047_Food_cravings_and_aversions_during_pregnancy_Relationships_with_nausea_and_vomiting
https://www.activationproducts.com/blog/chocolate-cravings-you-might-be-deficient-in-magnesium/

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