その空腹感は本物

ファスティング時間が長くなると耐えられないほどの空腹感に襲われるのではないかと想像してしまいますが、実は逆にファスティング時間が長くなるほど空腹感は小さくなってくることが分かっています。

それには飢餓ホルモンであるグレリンが影響しています。

 

グレリンを制御することこそ、無駄な食欲を抑え本来必要な食欲を取り戻すことに繋がります。

 

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グレリンとは何か?

飢餓ホルモングレリンの働き

グレリンは1999年にラットの胃から発見されたまだ歴史の浅いホルモンです。

「飢餓ホルモン」「空腹ホルモン」とよばれ、空腹時に胃から多く分泌されることが知られています。

 

成長ホルモン分泌を強力に刺激するほか、食欲増進脂肪組織増大の効果があります。

そのため、食欲を減らし脂肪代謝を促進するレプチンとは拮抗するホルモンであるとみなされています。

グレリンの日内変動

グレリンが空腹ホルモンとよばれるのは、食事前に血漿グレリン濃度が高値になり、食事後に低値になることが分かっているからです。

また、一般的に血漿グレリン濃度は肥満者で低く神経性食思不振症(いわゆる拒食症)では高くなることが知られています。

 

下のグラフは、1日3食を摂っている健康な6人(平均25.5歳)の一日のグレリン濃度の平均値のグラフ(実線)です。

この研究では、測定開始前に午前0時から翌日9時までの33時間の断食を行い、その後の24時間ファスティング中に測定を行っています。

測定は20分ごとに行われ、この間被験者に与えられたのは水のみ。また、被験者には食品を見せたり、匂いを嗅ぐことも避けるよう指示されました(脳相を避けるため)。

グレリンの日内変動

 

このグラフにはいくつかの重要なことが示されています。

午前9時に最もグレリン濃度は低くなる

普通、一日の中で最も絶食時間が長くなるのは、睡眠時間を挟む夜ご飯から朝ご飯までの間になります。

しかし、このグラフではグレリンの濃度が最も低くなるのは午前9時です。

絶食時間が長いはずの朝、つまり1日3食摂る普段の生活では飢餓感が最も少なくなるのは朝である、ということになります。

グレリンのピークは食事を摂らなくても自然に減少する。

グレリン濃度は一日の中で4回ピークが現れています。

そして、このピークは食事を摂らなくても、約2時間程度で自発的に減少しています。

 

みなさんは、こんな経験をしたことはないでしょうか?

  • 午前中から仕事が忙しくて昼休みもご飯を食べる時間がなく仕事に没頭していたら、いつの間にか空腹感がなくなってしまっていた。

これがまさに上のグラフが示していることであり、グレリンが刺激する空腹感は食事を摂らなくても自発的に減少していきます。

グレリンの時間学習作用

さらに興味深いのはグレリンの分泌が食事の時間を記憶しているという点です。

グレリンの4つのピークのうち、日中の3つは、朝食(7時)、昼食(12時)、夕食(19時)に対応していることが分かります。

これは脳相とも考えられますが、毎日同じ時間に食事を摂っていると脳がその時間を記憶して、食事をしてもしなくてもいつも同じ時間にお腹が空いてしまうということを意味します。

例えばいつも午後3時に間食を摂っていると、毎日午後3時にはグレリンが分泌されるようになって空腹感が出てきます。毎晩寝る前に夜食を摂っていたら、毎晩寝る前にグレリンが分泌されて空腹感がでてくるようになることを意味します。

この空腹感は栄養枯渇とは全く関係のない、本来必要な空腹感とは異なるものであると言えます。

 

ファスティングとグレリン

ファスティング中ではグレリンはどのような挙動を示すのかもう少し詳しく見てみます。

ファスティング中はグレリンレベルが徐々に下がる

この研究では24時間のファスティングで徐々にグレリンのレベルが下がってくることも見出しています。

ファスティング時間が長くなると、空腹感がどんどん増してグレリンレベルが高くなりそうな気がしますが、実際は逆に下がってきます。

下のグラフの真ん中のラインは6人の被験者の平均、上のラインは高レベルの3人の平均、下のラインは低レベルの3人の平均です。

24時間ファスティング中のグレリンの挙動

翌朝の8時に朝食を摂るまではグレリンレベルはどの被験者でも有意に下がっていることが分かります。

 

また、もう一つ注目すべき点があります。

グレリンレベルが低い3人の平均では、グレリンの時間学習作用によるピークが高レベルの三人に比べて小さいことが分かります。

この結果は、基礎的なグレリンレベルを下げることによってグレリンの時間学習作用をリセットできる可能性を示唆しています。

ファスティング中はグレリンのピークと成長ホルモンの分泌に相関はない

そもそもグレリン(Ghrelin)という名前は、成長ホルモン(GH)を放出(releasing)するホルモンという意味から、GH-releasingが由来となっています。

それだけ成長ホルモンと相関の強いホルモンであることが発見当初から明らかになっていました。

 

しかし、ファスティング中にはこの相関がなくなるようです。

下のグラフは、6人の被験者のファスティング中のグレリン(実線)と成長ホルモン(点線)の平均を重ね合わせたグラフです。

グレリンと成長ホルモン

グレリンのピークと成長ホルモンのピークは一致せず、また持続的に下がっているグレリンレベルに対し、成長ホルモンレベルは夜間で上昇を続けています。

さらに長期のファスティングでは女性の方が有意にグレリンレベルが下がる

33人の被験者に84時間のファスティングをさせてグレリンの挙動を調べた研究があります。この研究では、男性と女性、及び肥満と非肥満者に分けて結果が考察されました。

その結果、肥満と非肥満者では有意差はなかったものの、男女には差が見られました。

 

下のグラフの黒丸は女性で、白丸は男性のグレリン濃度を示しています。

グレリンレベルの男女差

横軸はファスティング時間で、男性よりも女性の方が低下するレベルが大きいことが分かります。右の棒グラフで示されている24時間の平均グレリン量を比較しても、女性(黒)の減少量の方が大きくなっていることが分かります。

 

また、この研究においても、ファスティング中のグレリンと成長ホルモンには相関がないことが明らかになっています。

グレリンと他のホルモンとの相関

同時にインスリンレベルは下がり、一方コルチゾールは徐々に高まっていきます。

コルチゾールが高まる理由は、ファスティングが体にとってストレスを感じるからであり、ファスティングに強いストレスを感じる場合は、そのファスティングは継続すべきではないと考えられます。

 

結論

私達が普段感じる空腹感はグレリンの時間学習作用による分泌に依存している場合が多いと考えられます。

特に空腹のピークから2時間後に消えるような空腹は、この効果に由来していると言えそうです。

基礎的なグレリンレベルを下げることは、このような学習作用によるグレリンの分泌を抑制する可能性があり、グレリンレベル低下にはファスティングが効果があると言えます。

また、ファスティング中に感じる空腹感は、ファスティング時間が長くなるにつれて弱くなってくることも示されます。

食べない時間が長くなるほど空腹感は感じなくなる、これは言い換えれば、食べれば食べるほど空腹感が強くなるということでもあります。

 

まとめ

  • 飢餓ホルモングレリンは空腹時に分泌されるホルモンで成長ホルモンの分泌を強く刺激する。
  • グレリンは食欲増進だけでなく脂肪蓄積の効果もあることからレプチンの拮抗するホルモンであると考えられている。
  • グレリンは午前9時に最も低くなる。
  • グレリンには脳相に似た時間学習作用があり、食事を摂る時間がいつも同じだとその時間に分泌されるようになる。しかしグレリン分泌が少ない人ではこのような学習作用は小さい。
  • ファスティング中はグレリンレベルが徐々に下がる。
  • ファスティング中はグレリンレベルと成長ホルモンレベルの相関が見られなくなる。
  • ファスティングによるグレリンレベル低下は、男性よりも女性の方が顕著に低下する。

 

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Reference