食べながら断食の効果を得る模倣断食ダイエット(FMD:Fasting Mimicking Diet)とは?

食べながら断食の効果を得る模倣断食ダイエット(FMD:Fasting Mimicking Diet)とは?

Jason Fungの間欠的ファスティング理論[1]とシドニー大学のグループが調べたインスリンインデックス(FII:Food Insulin Index)[2]を利用したMarty Kendallが提案する仮想ファスティングというアイデアを以前紹介しました。

この方法ではインスリン刺激が少ない(FIIが小さい)食品を選択することによって、食事をしながらもファスティングと同じように追加インスリン分泌を抑えることができるというアイデアに基づいています。

これにより基礎インスリンを低下させインスリン抵抗性、肥満を改善しようとする方法です。[3]

しかし、残念ながらこちらの方法では耐糖能の低下が懸念されるため、一部の人を除き今はあまり推奨されていません。

一方2018年になって、アメリカのバルター・ロンゴ氏が発案したFasting Mimicking Diet (FMD)(模倣断食ダイエット)の話題をよく耳にするようになってきました。

今回はその模倣断食ダイエットについて紹介したいと思います。

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模倣断食ダイエット Fasting Mimicking Diet(FDM)とは?

Valter D. Longo(バルター・ロンゴ)は南カルフォルニア大学の長寿研究の第一人者で、これまでに長寿やファステイングに関する多くの研究を行ってきています。

彼が数年前に提案した模倣断食ダイエットは、定期的に5日間だけ特定の栄養バランスに従う低カロリー食を摂取するプログラムです。従来の完全に食を断つ断食に比べて、取り組みやすいダイエットプログラムだと言われています。

Longoの著書はこちらです。

The Longevity Diet: Discover the New Science Behind Stem Cell Activation and Regeneration to Slow Aging, Fight Disease, and Optimize Weight

模倣断食ダイエット中の栄養バランスとカロリー

模倣断食ダイエット期間中は、基本的に低たんぱく、高中炭水化物、中脂肪食になります。初日と残りの4日間で栄養素の割合が少し変化します。[4]

1日目 – 1090cal

  • タンパク質27g(10%)
  • 脂肪56g(56%)
  • 炭水化物93g(34%)

2日目から5日目 – 725cal

  • タンパク質16g(9%)
  • 脂肪35g(44%)
  • 炭水化物85g(47%)

カッコ内はカロリーの割合です。

脂肪は飽和脂肪酸を避け不飽和脂肪酸(PUFA)を推奨

タンパク質は動物性を避け植物性を推奨

炭水化物は、ナッツ、豆類、穀物を推奨

これらを模倣断食ダイエット中の5日間摂るようにし、3か月に一回の割合で行うようにします。

また、模倣断食ダイエット中の食品をロンゴが運営する会社でセット販売されています。興味のある方は下のサイトからご覧下さい。(アフィリエイトリンクではありません)

模倣断食ダイエット(FMD)の効果

模倣断食ダイエットも間欠的ファスティングと同様の効果があると言われています。

Longoの実験結果について簡単に紹介します。

マウスによる実験

マウスの実験によると以下の効果が示されています。[5]

  1. 脂肪に関連する血液データの改善(コレステロール、中性脂肪等)
  2. 体重(体脂肪)の減少
  3. オートファジーの発動
  4. 損傷した膵臓の再生[6]
  5. ガン細胞発生数の減少
  6. 寿命延長

人における介入試験

また2017年に行われた健康な100人を対象にした介入試験でも、マウスの実験と同様に以下の効果が明らかになっています。[7]

  1. 脂質に関連する血液データの改善(コレステロール、中性脂肪)
  2. 体脂肪率と体重の減少
  3. 血圧の低下
  4. 空腹時グルコースの低下
  5. 炎症マーカーであるCRPの減少
  6. インスリン様成長因子IGF-1の減少

ただし、これらの効果を得られた人たちは主に体脂肪率が34%以上の人たちであって、それ以下の人たちにおいては有意な効果は見られなかったとの指摘もあります。

模倣断食ダイエット(FMD)の特徴と問題点

IGF-1と死亡率とがんリスクの関係

Jason Fungが推奨する間欠的ファスティングではインスリンを下げることを目的とし、主に糖尿病患者へのアプローチがメインですが、Valter Longoが推奨するFDMではインスリン様成長因子IGF-1を下げることを目的とし、長寿とがんを予防することをメインとしています。

Longoが2014年にCELL Metabolismに報告した論文を基に彼の主張を見てみたいと思います。[8]

50歳以上のアメリカ人男女6381人を対象に、全摂取カロリーのうちタンパク質の摂取カロリーが[1]10%未満(低タンパク摂取群)、[2]10-19%(中タンパク摂取群)、[3]20%以上(高タンパク摂取群)の3グループに分類して18年間の追跡調査を行いました。

この間、全死亡率は40%、心血管疾患は19%、糖尿病罹患率は1%だったとのこと。

調査の結果、50-65歳の高タンパク摂取群の全死亡率は低タンパク摂取群よりも74%高くなっており、がんによる死亡リスクも4倍高まっていることが分かりました。一方で肉や乳製品などの動物性タンパク質は、がんおよび全死亡率を高めましたが、植物性タンパク質については影響はなかったとのこと。

対象者をさらに45-65歳に広げても同様の結果が得られたそうです。しかし、65歳以上では反対に高タンパク摂取群ががんのリスクや全死亡率を下げる結果になったとのことです。

Longoらは、これらの関連性についてインスリン様成長因子1(IGF-1)の影響を調査しました。

その結果、タンパク質摂取量によって血中のIGF-1レベルが上昇することが明らかになり、IGF-1が10nm/ml増えるごとにがんによる死亡リスクは9%高くなっていることが分かりました。

一方で、65歳上ではIGF-1レベルは生理的に下がってくることも明らかになりました。

これは加齢とともに筋肉が衰えていくこととも関連していますが、65歳以上の場合高タンパク摂取群の方が死亡リスクが減ったことを説明することにも繋がります。Longo自身も65歳以上の老人では、10-20%のタンパク質摂取量を増やすことを推奨しています。

IGF-1が増えるとなぜがんの発生リスクと成長速度が高まるのでしょうか?

IGF-1はmTORというタンパク質キナーゼのシグナル伝達を制御する役割を持っています。ここで、mTORについて「細胞が自分を食べるオートファジーの謎」から引用します。

アミノ酸とインスリンによる主要な細胞内信号伝達経路は、TOR(哺乳類ではmTOR)という分子に行き着く( 図 8‐3)。TORは栄養シグナルの主役であり、タンパク質の合成や細胞の成長を促進するのに重要な細胞内調節因子である。TORはタンパク質キナーゼ で あり、下流のいくつかのタンパク質をリン酸化する。 特に有名な因子は、S 6キナーゼと4 E‐BP1と呼ばれるタンパク質で、これらのリン酸化はmRNAの翻訳( タンパク質 合成)を促進する。その一方で、TORはオートファジー因子であるULK1( 酵母のAtg 1)や Atg13などをリン酸化することでオートファジーを抑制している。つまり、栄養がたくさんあると、TORが活性化され、それによってオートファジーが抑制されるというわけである。

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難しい話が出てますが、要点はmTORが活性化されるとオートファジー(異化・分解)が抑制され、細胞の成長や合成が促進する方向に向かっていくということです。成長期におけるmTORの活性はそのまま成長を促しますが、成長期が過ぎた後のmTORの過剰な活性は老化に向かうことを示します。

成長は単に好ましい細胞だけではなくがん細胞の成長にも寄与します。これががんの発生リスクと異常成長を促進することに繋がると考えられています。[9]

がんの発生リスクを低下させるためにはmTORの活性を抑制させることが重要であり、その活性を抑制するためには制御を担っているIGF-1を下げること、すなわち断食+低タンパク食が有効だと考えるのがLongoのFMDの理論の柱になります。

マウスによる検証

Longoらは引き続きマウスを用いてこれらの仮説を検証しています。[8]

同カロリーで高タンパク摂取群(タンパク質18%)と低タンパク摂取群(4-7%)の2グループに分け、39日間それぞれの餌を与え続けました。8日目に黒色腫細胞(B16)を両方のマウスに移植し、がんの発生率と進行を観察しました。

その結果、高タンパク食グループではがんの発生率が100%であったのに対し低タンパク食グループでは80%、また低タンパク食グループの腫瘍の大きさは、高タンパク食グループの大きさに比べて約78%も小さくなっていることが分かりました。

さらに、高タンパク食グループでは低タンパク食グループに比べて、IGF-1のレベルが35%低下していることも明らかになりました。

A:がんの発生率 B:がんの体積成長 C:IGF-1の血中濃度 黒が高タンパク食グループ、青が低タンパク食グループ

この傾向は、乳がんの細胞を移植した場合でも同じ結果が得られました。

IGF-1を下げ過ぎることによる懸念

確かにIGF-1を下げることはいくつかのがんの発生を抑制することが分かっています。[10,11]

しかし、あまりにも低すぎるIGF-1は全ての死亡率において逆に高くなってしまうことも分かっています。IGF-1と死亡率は下図のようにU字型のグラフを示すことが分かっていて、高すぎても低すぎても死亡率が高くなります。[12]

FMDはIGF-1が高すぎる人には効果があるかもしれませんが、正常値にある人がやるのは問題となる可能性もあります。

特に高齢者におけるIGF-1は筋力低下を予防する重要な役割を果たしています。[13,14]

こちらの記事でもまとめたように、男性における同化ホルモンの減少は寿命短縮に関連することが分かっています。

あまりにも低下させすぎることは悪影響の方が多くなってくることが予想されるので注意が必要です。

まとめ

模倣断食ダイエット(FMD)は、低タンパク、高中炭水化物、中脂肪食の低カロリー食を提供する5日間の断食ブログラムです。

断食中であっても食事を完全に断つわけではないので、ストレスを最小限にしながら取り組むことが大きなメリットだと言えます。

このプログラムでは、老化を促進するIGF-1の分泌を抑制することを目的とし、スローエイジングやがんの発生や進行を遅らせる効果が期待されています。

しかしがんや膵臓の再生に関する効果に関してはマウスで検証されたものであり、実際に人における効果は今後の研究結果が待たれます。また、低すぎるIGF-1は逆に死亡率を高めることにも繋がるので、特に65歳以上の高齢者においては注意が必要です。

一方、Marty Kendallが提案する仮想ファスティング[3]に比べて、断食中に発生しやすい耐糖能低下は起こりにくいと考えられるので、比較的安全に取り組むことができるのではないかと考えられます。

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Reference

[1]https://saitokarami.com/whats-intermittent-fasting/
[2]https://www.researchgate.net/profile/Peter_Petocz/publication/13872119_Holt_SHA_Brand_Miller_JC_Petocz_P_An_insulin_index_of_foods_the_insulin_demand_generated_by_1000-kJ_portions_of_common_foods_Am_J_Clin_Nutr_66_1264-1276/links/00b495189da41714fa000000.pdf/download?version=vs
[3]https://optimisingnutrition.com/the-insulin-index/
[4]https://prolonfmd.com/fasting-mimicking-diet/
[5]https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413115002247
[6]https://articles.mercola.com/sites/articles/archive/2018/01/02/fasting-mimicking-calorie-restriction.aspx
[7]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28202779
[8]https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S155041311400062X
[9]https://idmprogram.com/autophagy-in-human-disease-mtor-autophagy-2/
[10]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29411341
[11]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29162853
[12]https://academic.oup.com/jcem/article/96/9/2912/2834729
[13]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20157530
[14]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11283443
[15]https://www.marksdailyapple.com/does-the-fasting-mimicking-diet-live-up-to-the-hype/

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