妊娠中の鉄サプリメント摂取が子どもの1型糖尿病発症リスクを高める

妊娠中の鉄サプリメント摂取が子どもの1型糖尿病発症リスクを高める

2017年における「健康食品・サプリメント」の市場規模は1兆5624億円と試算されています(1)。

iHerbなどを通して海外製のサプリメントも個人で容易に手に入るようになり、サプリメントを使用している人の数も増加の一途をたどっているようです。

一方で、サプリメントには様々なリスクとの関連も確認されおり、疾患や死亡率との関連性を示す報告も多数存在します。

そのような中で、妊婦が鉄サプリを使用すると子どもの1型糖尿病発症率が高くなるという報告があったので、母親のリスクと含めてまとめてみたいと思います。

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出生前の鉄過剰が小児期1型糖尿病発症リスクと関連

2018年にScience Reportsに発表された論文によると、妊娠中の鉄分摂取と子どもの1型糖尿病に関連があると報告されています(2)。あくまでも相関関係を示すものであり、因果関係を示すものではありませんが、昨今の鉄サプリブームに一石を投じる論文だと思います。

妊娠中の鉄サプリの使用が原因?

著者たちは2010年にNature Reviews Endocrinologyに報告された内容を元に、妊娠中の鉄サプリメントが子供の1型糖尿病発症リスクと関連しているという仮説を立て94,209人のノルウェーの母子を追跡調査しています。

追跡調査の間、鉄サプリメントを使用したのは64%の母親で、ヘモグロビンが10.5mg/dL未満の患者で最も使用率が高く、ヘモグロビン濃度が正常な患者(12.5mg/dL未満)の半数も鉄含有サプリメントを使用していたとのこと。

追跡調査で分かったことは、鉄サプリメントを使用した母親から生まれた子どもの1型糖尿病発症率は有意に上昇したとのこと。

下のグラフからも分かる通り子どもの年齢が高まるにつれて発症率が徐々に上昇していることが分かります。

使用したサプリの種類別に見てみると、鉄サプリ単体を摂取した場合は摂取しなかった場合に比べて1.71倍、鉄を含むマルチサプリを使用した場合は1.60倍、鉄を含まないサプリメントを使用した場合でも1.25倍という結果になっています。

またサプリメントを使用した期間については、妊娠17週以前に使用した時が最も高く1.75倍の発症率。

食品で摂った場合はどうか?

一方、サプリメントではなくて食品から鉄分を摂取した場合はどうだったのでしょうか?

The amount and inter-individual variation of iron intake from foods were typically much lower than that from iron containing supplements. Iron intake from foods during pregnancy was not associated with T1D in the offspring (adjusted HR for highest vs lowest quartile 1.05, 95% CI 0.77–1.42, Supplementary Table S2).

A diagnosis of maternal anaemia did not independently predict T1D, and haemoglobin <10.5 g/dL recorded during pregnancy was not associated with T1D in the offspring (Supplementary Table S2). Adjusting the main analysis for low haemoglobin yielded virtually unchanged risk estimates (HR 1.34, 95% CI 1.04–1.74). Stratifying the analysis by pregnancies with lowest haemoglobin <10.5 g/dL, we found risk estimates similar to those in the full cohort analysis (data not shown). Restricting to pregnancies without a diagnosis of anaemia yielded identical HR estimates to the full cohort analysis (data not shown). Again, this supports the notion that the observed association between maternal iron supplements during pregnancy and T1D was not driven by anaemia as an underlying reason for taking iron supplements.

https://www.nature.com/articles/s41598-018-27391-4

論文によると、食品から最も鉄を摂取したグループと最も鉄を摂取しなかったグループを比較した結果、発症率は1.05倍だったそうで、食品の場合は有意差はなかったとのこと。

また、貧血と診断された患者であっても発症率とは相関はなく、ヘモグロビン値との相関も見られなかったとのこと。

つまり、何を食べたのか、貧血だったかどうかにかかわらず、鉄を含むサプリメントを摂った場合だけ子供の1型糖尿病発症リスクが高まったという結果になっています。

なぜ鉄サプリでは問題になるのか?

で、なぜ鉄サプリを摂ると子供の一型糖尿病の発症率が高くなるのか?

論文ではいろいろ考察されていますが、関係性がありそうなものの一つに母親の炎症反応の増加との関連が指摘されています。

Overall, we conclude that there was suggestive evidence from our studies that maternal/fetal iron exposure was associated with increased systemic inflammation.

もう一つは鉄サプリを使用した場合の腸内細菌叢の変化です。

鉄サプリを使用した母親の幼児の腸内細菌の中で、バクテロイデス属(Bacteroides属)の構成比率が優位に高かったことがあげられてます。

バクテロイデス属の最近は日和見菌の一種ですが、腸管免疫系に対して免疫修飾作用を有すると言われています(3)。

2型糖尿病患者においてもバクテロイデス属の細菌が有意であることが報告されており、腸内環境の悪化によって引き起こされる炎症・酸化ストレスの増大に対して防御機構が働いている可能性があることが示唆されています。(4)

したがって、1型糖尿病を発症した子供の腸内細菌の中でバクテロイデス属が多いことは、鉄サプリメントの使用によって腸管にダメージを受けている可能性があることを示唆していると言えます。

鉄過剰による母親への影響

一方で、鉄サプリメントを使った場合に母親の方には影響はないのでしょうか?

この件に関しては報告を挙げるときりがないのですが、鉄過剰と妊娠糖尿病の関連を示す論文は少し検索するだけでわんさか引っ掛かります。[5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15]

こちらの前向きコホート研究によると、妊娠初期からの鉄分の蓄積が妊娠糖尿病に関連があると報告しています(16)。

こちらでもフェリチンが高いほど妊娠糖尿病のリスクが高まるとのこと(17, 18)。

興味深いのは、鉄欠乏症の場合は逆に妊娠糖尿病の発症リスクが下がるという報告さえあります(19)。

ちなみに、このような論文で用いられている「鉄過剰」とはフェリチンが60-80μg/L以上で設定されていることがほとんどで、ましてや100以上で正常とされている論文などは一つも存在しません。

また、サプリメントによって母親のフェリチンが高くなったとしても、新生児の鉄の状態には全く反映されず、妊娠糖尿病と子宮内発育遅延のみに関連しているという報告さえあります。(20)

もはや何のために鉄サプリメントを使用しているのか分からないくらいですが、とにかく妊娠中の鉄サプリの使用には非常に注意が必要だと思われます。

まとめ

妊娠中の鉄サプリの使用に関するリスクをまとめました。

ノルウェーでは2000-2005年までは国家ガイドラインに妊婦の血清フェリチンと低レベルの人のための鉄サプリメントの処方が推奨されてきましたが、改訂された現在のガイドラインでは血清フェリチンの測定は省かれ30週目のヘモグロビン測定だけが推奨されているそうです。(21)

つまり、ノルウェーではフェリチンはすでに妊婦の鉄欠乏性貧血の指標として使われていないようです。

ここに挙げた論文を見る限りでは、もちろん鉄欠乏状態が良いわけではないにしろ、それを改善させるために鉄サプリを用いたり、一生懸命鉄分を摂取することは、母体にとっても生まれてくる子供にとっても糖尿病発症のリスクとなる可能性が非常に高いことを示唆しています。

いずれにせよ「フェリチン100以下は全員鉄不足」というような根拠のない基準に頼って、個人の判断で鉄サプリを使用するようなことは控え、医師の監視の下で取り扱うことが必要であると思われます。

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Reference

[1]https://www.tsuhannews.jp/49660
[2]https://www.nature.com/articles/s41598-018-27391-4
[3]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%B9%E5%B1%9E
[4]https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/1/104_57/_pdf
[5]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26373962?dopt=Abstract
[6]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15001377?dopt=Abstract
[7]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16644640?dopt=Abstract
[8]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27511926?dopt=Abstract
[9]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23356500?dopt=Abstract
[10]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11318843?dopt=Abstract
[11]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24082721?dopt=Abstract
[12]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18413178?dopt=Abstract
[13]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20074991?dopt=Abstract
[14]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21437111?dopt=Abstract
[15]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24902020?dopt=Abstract
[16]https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00125-016-4149-3
[17]https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/dme.13056
[18]https://academic.oup.com/jn/article/146/9/1756/4630471
[19]https://www.nature.com/articles/ejcn2015157
[20]http://www.academia.edu/14386536/Association_of_increased_maternal_ferritin_levels_with_gestational_diabetes_and_intra-uterine_growth_retardation
[21]https://www.nature.com/articles/s41598-018-27391-4

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